JAFTA BLOG
2024.5.15
爪切りの今昔
今年の大河ドラマは大石静さんの脚本で紫式部を主人公にした『光る君』がブームになっているようです。なんとも現代風にアレンジされた紫式部とその他の登場人物の振る舞いが新鮮に感じられます。
平安時代の貴族社会の生活は民衆のそれとはかけ離れたものだったでしょうが
日常生活の細部にわたって占い(陰陽道)により様々な選択をしたことが知られています。
例えば、出かける際の日取りや時刻、方角のみならず、果ては政治的な判断まで
左右しただけでなく、彼のドラマでも政敵を呪詛(呪い殺す)してしまうなどのシーンも描かれています。陰陽道が天体観測に基いた事象の予測だったとすれば、現代の天気予報にも通ずるものなので、全てが呪術的とも言えないのかもしれませんが、彼等の生活は現代からは想像出来ない日々だったのでしょう。
髪や爪には魂の一部が宿るとされていましたので、髪を切る事のみならず、爪を切る習慣も一般的ではなかったようです。
紀貫之の『土佐日記』も平安時代中期のものですが、この中の1月29日の項に伸びた爪の話が出てきます。
以下に引用します。
二十九日、船出だして行く。うらうらと照りて漕ぎ行く。爪のいと長くなりにたるを見て、日を数ふれば、今日は子の日なりければ、切らず。正月(むつき)なれば、京の子の日のこと言ひ出でて、「小松もがな」と言へど、海中(うみなか)なれば、かたしかし。
ある女の書きて出だせる歌、おぼつかな今日は子の日か海人(あま)ならば海松(うみまつ)をだに引かましものをとぞ言へる。「海にて子の日」の歌にては、いかがあらむ。
停泊していた船がうららかに出航した。爪が大変長くなったのを見て何日だろうと数えてみれば今日は子の日だったので切らなかった。正月なので京都での子の日の事を言い出して小松の行事をと思っても海の上では難しい。 ある女の書いた歌は
今日は子の日なのでおぼつかないが海人ならば(小松を引くのでなく)海松を引くだろう というのである。 海の上で子の日という歌は如何なものであろう。
爪が伸びてきたので丑の日かなと思ったが前日の子の日であったという事なのでしょう。 爪のお手入れをする日が決まっていたなんて驚きますが逆に爪の伸び具合で時間経過を知ることが出来たようです。
どのような道具で爪を切っていたのか定かではありませんが、平安時代の法令施行細則を述べた『延喜式』という書物には『爪磨(つまと)』という言葉がみられ、切らずにヤスリのようなもので削っていたのかもしれません。
文責:JAFTA 衛生委員長 日吉徹
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